Written by M.Ken'ichi

【家族向け】アルツハイマー型認知症について詳しく【割合・症状・経過】‐ 前編 ‐

認知症

認知症と言えばアルツハイマー病ってよく聞くけど、そもそもアルツハイマー病ってなに?もしもの時のために予備知識として知っておきたい。

そんな質問にお答えします。
※アルツハイマー病は高齢発症型と若年発症型に大別されますが、ここで言うところのアルツハイマー病は高齢発症型アルツハイマー病を指します。
※アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症は同義語です。ブログ内で混在しておりますがご容赦ください。

前編では高齢発症型アルツハイマー病の概要について、後編ではアルツハイマー病の治療についてじっくりと話を進めていきます。ちょっと長いですが頑張りましょう。

※現在、認知症の専門医の下で勉強中です。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。

今回の内容

  • アルツハイマー病とは
  • アルツハイマー病の割合
  • アルツハイマー病の危険因子
  • アルツハイマー病の症状 ‐ 今までできていた能力の喪失 ‐
  • アルツハイマー病の症状 ‐ 今までになかった異常な言動や行動の出現 ‐
  • アルツハイマー病の自然経過

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アルツハイマー病とは

アルツハイマー病
脳細胞の中にある種の異常タンパク質がごくゆっくりと蓄積されていく病気です。10-20年くらい経過してある程度以上の異常タンパク質が溜まると、脳細胞の働きが低下して認知症の症状が徐々に出現してきます。ほとんどの場合、物忘れの症状から始まりますが、これは記憶を司る海馬という部分に異常タンパク質が溜まりやすいことが原因で起こります。

さらに異常タンパク質が溜まると周囲の正常な脳細胞を巻き込んで弱らせ、死なせてしまいます。そうすると脳の体積が減って縮んでいき、いわゆる脳萎縮の状態となります。

『 異常タンパク質を取り除いたり蓄積を防いだりすることができればアルツハイマー病を完治させることができるじゃんない? 』という意見もありますが、残念ながら現在の医学では難しいのが現状です。(実際に取り除いた研究があるようですが、アルツハイマー病の完治には至らなかったとの報告もあります。)したがって異常タンパク質の蓄積とともに、ごくゆっくりと認知症が進行していくことは避けられません。

注意点

以下の事実も重要です。アルツハイマー病では認知症が加速度的に進行することはありません。突然進行したり症状の変化が起こったりした際は、他の病気や薬による副作用を合併した可能性が極めて高いです。アルツハイマー病は治らなくても合併した病気は治せる可能性があります。何でもかんでもアルツハイマー病のせいにしない。これが重要です。

アルツハイマー病の割合

認知症の割合
アルツハイマー病は認知症を引き起こす原因として最も多く、認知症全体の約70%を占めています(地域差などで若干のバラつきがあります)。男女比はおよそ1:2くらいで女性に多い傾向です。

一般的に言われているアルツハイマー病の危険因子

  • 加齢
  • 性別(女性)
  • 子ども時代の低教育歴
  • 頭部外傷の病歴
  • 遺伝性危険因子の存在(アポリポ蛋白Eのε4多型)
  • 危険因子とは?

    『 ある要因を有している人が、それを有していない人に比べてある疾患を発病する率が高くなること 』です。危険因子は発病に先立って存在しており、発病に影響を与える要因ではありますが、必ずしも因果関係があるわけではない点に注意しましょう。

    アルツハイマー病の症状 ‐ 今までできていた能力の喪失 ‐

    アルツハイマー病
    アルツハイマー病の症状は大きく分けて『 今までできていた能力の喪失 』『 今までになかった異常な言動や行動の出現 』の2パターンに分けられます。まずは『 今までできていた能力の喪失 』について病気が原因で起こる症状と、それらの症状の結果として起こる日常生活への影響についてまとめていきます。

    病気が原因で起こる症状

    ・新しい物事が覚えられない(記憶障害)
    ・集中力や根気が続かない(注意障害)
    ・言葉がうまくしゃべれない~言われたことが十分に理解できない(言語障害)
    ・家事や仕事の手順や段取りを組み立てられない(遂行機能障害)
    ・適切な判断ができない
    ・家電などの道具や品物を正しく扱えない
    ・ごく簡単な計算ができない

    結果的に起こる日常生活への影響

    ・入浴や着替えなどの自分の身の回りのことがちぐはぐになる
    ・料理や洗濯などといった家庭内の仕事がちぐはぐになる
    ・伝言や約束事が覚えられず人間付き合いがちぐはぐになる
    ・仕事上の失敗や不手際が多くなる

    初期~中期のアルツハイマー病でよくみられる3つの症状についてもう少し詳しく解説します。これらを正しく理解していれば、スムースに接するためのヒントになると思います。

    記憶障害(新しい情報を脳に記録して引き出す能力の障害)

    記憶障害はアルツハイマー病だけでなく、ほとんどすべての認知症でみられる代表的な症状です。認知症でみられる記憶障害とは『 新たに脳の中に入ってきた情報を記憶する能力の障害 』です。そのため新しいこと、最近のこと、ついさっきのことの記憶を作ることができず、忘れたり、思い出せなくなったりします。

    厳密に言うと『 記憶を作っていない 』というのが本質です。症状が軽ければ必要な記憶を十分に作れず断片的になる程度ですが、症状が重くなればなるほど記憶を作れなくなります。したがって『 作っていない記憶は引き出せない 』という感じになります。

    その一方、病気になる前の昔の記憶のことはよく覚えているのが普通です。認知症による記憶障害では、病気がかなり進行しないかぎり『 昔から脳の中に蓄えられてきた情報を引き出す能力 』は保たれていることが多いからです。

    遂行機能障害(手順や段取りを組み立てる能力の障害)

    『 AとBで重要なのはAだから、Aを先にやってBはあとにする 』『 AとBをやってからCをやる。だけど今はDはやらない 』といった行動を組み立てていく判断力の障害です。遂行機能障害も多くの認知症で初期からみられます。買い物や料理、料金の支払いといった場面において『 あれをやって、それをやって、それからこれをやる 』といった順番や段取りのある行動が苦手になります。

    ところが不思議なことに『 着替える、お金を払う、包丁を使う、字を書く、準備をする 』といった一つ一つの行為をやるように指示すると問題なくできます。それもそのはず。指示通りにやるだけならば遂行機能は必要ないからです。したがって手順や段取りを自分で判断する必要がない状況では、一見すると認知症があるように感じさせないことがしばしばあります。『 言われたらできるけど、任せるとできない 』これが遂行機能障害の特徴です。

    病識の障害(自分の障害を正確に認識する判断力の低下)

    多くの場合、自分の障害の程度を正確に判断する能力が低下します。そのためご本人は自分の物忘れや行動のちぐはぐ感をなんとなく自覚しています。しかし、それがどの程度ひどい状態なのかがわかりません。

    診察では、ご本人に対して『 物忘れはしますか? 』と尋ねると『 よく物忘れをします 』との答えが返ってきます。しかし続けて『 物忘れで困ることはありますか? 』と尋ねると、『 困ることはない 』という答えが返ってきます。このとき同時にご家族に尋ねると、明らかな物忘れがあるとの発言が大半です。つまり、ご本人は自分の症状や障害を正確に認識できていないということです。

    アルツハイマー病の症状 ‐ 今までになかった異常な言動や行動の出現 ‐

    妄想
    次は『 今までになかった異常な言動や行動の出現 』についてです。病気が原因で起こる症状と、それらの症状の結果として起こる日常生活への影響についてまとめていきます。

    病気が原因で起こる症状

    ・事実でないことを信じ込んで訂正がきかない(妄想)
    ・実際にはないものが見えたり聞こえたりする(幻視 / 幻聴)
    ・気分が不自然に暗く沈む(抑うつ)
    ・特別な原因がないのに息苦しさなどの不調を繰り返し訴える / 落ち着かない(不安)
    ・手助けなどのサポートを嫌がって怒ったり強く拒んだりする(興奮)
    ・妙に怒りやすい / 短気になる(易刺激性)
    ・深く考えずに衝動的に行動する(脱抑制)

    結果的に起こる日常生活への影響

    ・目的もなくウロウロと歩き回る(徘徊)
    ・幻覚に引きずられて行動してしまう
    ・攻撃的な態度や落ち着きのない様子が家族を苛立たせる

    Aさんの訴え:『 夫が私を置いて愛人のところへ遊びに行った 』
    夫はすでに亡くなっています。しかしAさんの記憶の中には夫が亡くなった事実がスッポリと抜けています。記憶がどこかで錯綜した結果、事実でないことを信じ込んでしまっている例です。この場合、家族がAさんが認知症を患っているということを心得て接していれば、日常生活で大きく困ることはないと思われます。
    Bさんの訴え:『 嫁が財布を盗った 』
    これもよくあるパターンです。財布の置き場所を忘れて物をなくすこと自体は記憶障害によるものですが、なくなったものを盗られたと思い込んでしまい、周囲が訂正してもまったく聞き入れないのは妄想の症状です。この場合においても、家族がBさんは認知症を患っているということを心得ておくと対応がしやすいです。対応策としては、一緒に探してあげてそれとなく本人に見つけてもらうといった一芝居が有効です。

    アルツハイマー病の自然経過

    アルツハイマー病
    どんな病気にもある程度の個人差があります。しかし、アルツハイマー病では多くの場合が図のような経過をたどります。全体の経過は15年~20年くらいですが、やはり個人差があります。50歳代~60歳代前半に発症する、いわゆる若年性アルツハイマー病ではもう少し進行速度が速くなります。

    初期

    ほとんどの場合、物忘れから始まります。これは脳の中で記憶を司っている海馬という部分にアルツハイマー病の異常タンパク質が最も溜まりやすい場所だからです。初期ではご本人に対してなんとなく不自然さを感じつつも生活場面で困ることはほとんどありません。おそらく『 最近、うちのばあちゃんもボケてきたな~ 』程度にしか感じないと思います。それくらい初期では深刻に考えることなく見過ごされがちになります。

    50歳代~60歳代前半に発症する患者さんの場合は状況が違います。家庭内では支障にならないような軽い物忘れや判断力の低下でも、仕事や社会活動の場面では深刻な制約を起こします。したがって、ご家族よりも先に友人や職場の同僚がご本人の異変に気付くこともしばしばあります。

    中期

    初期の終わりから中期の初めにかけて『 今までになかったような異常な言動や行動 』が大なり小なり出現してきます。その典型例が前述したような妄想です。中期ではこれらの症状が徐々に目立つようになり、やがてピークに達します。

    ただし、これらの症状にはかなりの個人差があります。妄想のほかにも幻覚や興奮、脱抑制などの症状を挙げましたが、すべての症状が同時に現れるわけではなく1~2個が相場です。さらにそういった症状の程度(中期のピークの高さ)にもかなりの個人差があります。多少そのような症状があるけれども周囲が心得ていれば大したことはなかったり、激烈な症状のせいで一緒に生活するのが苦しかったりと様々です。

    注意点

    『 今までになかった異常な言動や行動 』の症状は中期でピークに達することは事実ですが、そのピークは低い方がほとんどです。逆に、図の★印のように飛び抜けて強烈な症状を持つ患者さんの方が少ないです。でもそういった患者さんはとにかく目立ちします。目立つので『 アルツハイマー病になるとみんなこうなるのか… 』と思う方も多いことでしょう。しかし極端に怖がることはありません。割合だけでいれば非常に少ないのが現実です。

    後期

    この時期になると患者さんの脳内の活動量が減ってくるため、『 今までになかった異常な言動や行動 』も徐々に減っていきます。一方、『 今までできていた能力 』は一定の速度で低下していきます。言い方が悪いかもしれませんが『 しぼんでいく 』という表現がわかりやすいかと思います。

    進行期

    後期の後半から少しずつ身体症状が見られるようになります。身体症状とは動作が鈍くなったり、転びやすくなったり、飲み込む力が弱ったりといった具合です。この時期になってさらに数年が経過すると、患者さんはいわゆる『 寝たきり 』に近い状態になります。ただし、アルツハイマー病の患者さん全員が進行期(寝たきり状態)になるわけではありません。アルツハイマー病の多くは高齢で発症するので、個々の寿命自体が進行期まで届かないこともあるからです。

    全経過を通して『 異常な言動や行動 』がまったく現れない方もいます。このような場合、その患者さんの認知症が重度になっても、そのご家族がご本人のことを認知症だと思っていないということもあります。

    以上で前編は終わりです。
    小難しい話が続きましたが、いかがでしたでしょうか?

    ヒトは誰でもわけのわからない、目に見えないものは特に不気味に感じますし、警戒しますよね。でも認知症は病気の症状です。決してわけのわからないものではありません。

    まずは少しでも認知症とその症状について理解していただけたらという思いで解説してみました。

    次回は後編です。
    後編ではアルツハイマー病の治療について解説していきたいと思います。