Written by M.Ken'ichi

【家族向け】アルツハイマー型認知症について詳しく【対応と治療】‐ 後編 ‐

認知症

アルツハイマー病の認知症でどんな症状がでるのかはなんとなく理解できた。次は具体的な治療方法とか対処方法があったら教えてほしいな。

そんな質問にお答えします。

前編では高齢発症型アルツハイマー病の概要について解説しました。
後編ではアルツハイマー病の治療についてじっくりと話を進めていきます。

※現在、認知症の専門医の下で勉強中です。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。

前回の内容
‣【家族向け】アルツハイマー型認知症について詳しく【割合・症状・経過】‐ 前編 ‐

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アルツハイマー病の治療

治療
まず先に申し上げておきます。現時点における医療技術では、アルツハイマー病の原因となる異常タンパク質を取り除く根本的な治療方法はありません。しかし、合併症を防いで認知症の進行を加速させないための手段はいろいろあります。

これは糖尿病や高血圧症などと同じです。どんなに運動療法や食事療法、服薬治療をしても病気そのものが完治することはありません。しかし何もせずに放置していれば、動脈硬化が加速されて心筋梗塞や脳卒中といった合併症のリスクを高めてしまいます。アルツハイマー病においても必要な治療が行えていれば、認知症の症状は極めてゆっくりと進行するだけで済みます。しかし放置していると、病気の進行程度に比して認知症の症状が加速度的に悪くなり収拾のつかない状態に陥ります。

ということでアルツハイマー病の治療の紹介ですが、結論から申し上げるとできるだけ『 薬物に頼らない治療と環境作り 』がベストです。これはどんな病気にも言えることですが、やはり『 余計なモノ 』を体内に入れることはそれなりの負担になります。とは言え、止むに止まれない状況があるのも確かです。したがって『 薬物治療は最終手段 』としてお考えいただくのが良いかと思っています。

今までできていた能力の喪失に対して

アルツハイマー病
アルツハイマー病の認知症には主に『 今までできていた能力の喪失 』『 今までになかった異常な言動や行動の出現 』の2パターンの症状があります。ここでは各症状に対して有効な以下の3つの治療方法についてそれぞれ紹介していきます。※症状については前編をご参照ください。

  • 症状を悪化させないための環境作りと介護
  • 薬物に頼らない治療
  • 薬物による治療
  • まずは今までできていた能力の喪失に対する3つの治療方法を見ていきましょう。

    症状を悪化させないための環境作りと介護

    最も重要なのは廃用症候群を防ぐことです。

    ‐ 廃用症候群 ‐
    何もせず、精神や身体を使わないことによってそれらの機能が低下することです。病気やケガで一定期間寝たきりになった患者さんの筋力が低下したり、精神的に不安定になったりするのも廃用症候群による影響が考えられます。高齢者に多いのはもちろんですが、若年者にも少なからず合併することがあります。

    アルツハイマー病は物忘れとともに、行動の手順や段取りを組み立てる判断力の低下(遂行機能障害)が初期から起こります。そのため、その場で一つ一つ指示されてやる分には問題がないのに、本人に任せてしまうと行動がちぐはぐになります。結果的に本人は自発的に何かをすることを避けるようになり、何もすることなくぼんやりと過ごすことが多くなります。

    こんな形で放置されると廃用症候群を合併し、病気で障害されていないはずの認知機能や運動機能までもが低下してしまいます。これを防ぐためにはきちんと活動性を高めて、保たれている能力を使うように働きかけていくことが必要となります。

    ‐ 具体的には以下の通りです ‐

    本人にとって快適な活動を見つけて持続させる

    本人がその場を気分よく過ごせることが残存する機能を活動させるための前提条件です。これに関しては本人談だけではわからない場合が多いです(たとえ楽しく過ごしていたとしても忘れてしまうため)。したがってサービス先のスタッフなど、必ず第三者に確認する必要があります。

    手順や段取りの障害を周囲が補う

    後述するように『 何を、いつ、どこで、どういった段取りで行うか 』といった、より具体的なプランの提示も重要ですが、最も有効なのは『 生活リズムを確立すること 』です。『 〇曜日の△時に××をする 』といった具合に、時間割がある程度決まった生活を根気よく繰り返していくことがとても重要です。

    1日~1週間の単位で生活リズムを提供することが、いわば患者さんの『 杖 』になります。この『 生活リズムという杖 』に支えられることで、残存する能力を十分に発揮することができます。そのためにはご家庭での働きかけに加え、デイサービスやデイケアといった通所サービスの利用も有効です。『 〇曜日と△曜日、×時~×時までデイケアに行く 』という習慣が患者さんの活動性を高めてくれます。

    ‐ 以下、注意点です。ついやりがちですがこのような方法では効果がありません。‐

    言葉で勧める、うながす、励ますだけでは効果はありません

    『 頭を働かせましょう 』『 身体を動かしましょう 』『 ~をしましょう 』と勧められても、遂行機能障害のせいで手順や段取りを組み立てることが困難です。そのため『 何を、いつ、どこで、どういった段取りで行うか 』といった具体的なプランがある程度決まっていないと行動がちぐはぐになります。本人にやる気があったとしても、思ったほどスムースに事が運ばないことが続くと次第に意欲を失ってしまいます。

    失われた機能を訓練して改善しようとしても効果はありません

    アルツハイマー病をはじめとする進行性の認知症では、脳の正常な部分はすでに目一杯働いて障害をカバーしようとしており、それでもカバーしきれない要素が症状として表面化しているのです。したがって、失われた機能を訓練しても大きな改善は望めないのが現実ですし、しばしば患者さんの意欲を失わせてしまいます。

    『 記憶の障害があるから、モノを覚える練習をする 』
    これは患者さんの周囲の人間がよく陥る間違いです。

    認知症に限らず、いろいろな病気やケガで苦しむ患者さんがきつい訓練に耐えながら、懸命にリハビリテーションに励んでいます。そういった患者さんが何を支えに頑張っていると思いますか?それは『 自分が少しずつ良くなってきている 』という実感です。頑張って訓練しても改善が実感できないと患者さんは失望感を感じ、すぐに意欲を失ってしまいます。特に認知症の場合は『 残っている能力で無理なくできることをしてもらう 』これが大切です。

    薬物に頼らない治療

    ざっくりと分けると『 認知機能に焦点を当てて 』『 刺激入れに焦点を当てて 』の2パターンあります。1つずつ見ていきます。

    認知機能に焦点を当てて

    訓練によって認知機能障害の軽減を目指そうとするものです。リアリティ・オリエンテーションがその代表です。いわゆる脳トレの類です。

    ‐ リアリティ・オリエンテーションの有用性 ‐
    一時的に軽度の改善が得られるとの報告がある反面、かえって抑うつや欲求不満が出現したり増幅したりするとの報告もある。

    これらのアプローチの多くは結果があやふやで、確実に効果があるとは証明されていないようです。したがって効果が一時的且つ軽度であり、好ましくない精神的反応が生じるリスクを負ってまで実施する必要性はなさそうです。ただし、集団やレクリエーションのような活動を好まず、むしろ訓練的な活動に馴染みやすいタイプの患者さんに対してであれば選択肢の一つとして考えても良さそうです。

    刺激入れに焦点を当てて

    レクリエーション療法(手芸、ゲーム、ペットなど)、芸術療法(音楽、ダンス、美術など)が含まれます。これらの刺激によって残存する認知・感情面の機能を引き出すことを目的としています。これらの方法に関しては十分な有用性を証明するのが容易でははありません。しかし、本人にとって快適な刺激であれば、有用性は別として人間的なケアの一部として肯定的に考えとも良いと思われます。

    薬物による治療

    現在は4種類の治療薬が認可されています。

    アルツハイマー病の異常物質が蓄積し、働きが低下した脳細胞の一部を刺激する薬。
    一般名:ドネペジル   商品名:アリセプトなど
    一般名:リバスチクミン 商品名:リバスタッチなど
    一般名:ガランタミン  商品名:レミニールなど
    脳細胞への過剰な刺激を抑制し、細胞死を遅らせる薬。
    一般名:メマンチン 商品名:メマリー

    副作用との兼ね合いもありますが、生活上の障害に対して有効ならばいずれも使ってよい薬剤です。ただし繰り返しになりますが、残念ながらアルツハイマー病の原因を取り除き、病気を根本から治してくれる薬ではないことをお伝えしておきます。

    今までになかった異常な言動や行動の出現に対して

    アルツハイマー病
    次は、今までになかった異常な言動や行動に対する3つの治療方法を見ていきましょう。

    症状を悪化させないための環境作りと介護

  • 認知症は病気による症状であることへの理解
  • 患者さんの生い立ちを知って症状の予測を立てる
  • この2点がとても重要です。例を挙げて1つずつ見ていきましょう。

    認知症は病気による症状であることへの理解

    今までになかったような異常な言動や行動(妄想、抑うつ、興奮など)は、介護するご家族の大きな負担となります(負担に感じないご家族はいないと思います)。ところが、介護者自身が知らず知らずのうちにそういった症状を刺激し、2倍3倍へと膨らませてしまうことがかなりの割合で起こっています。

    これらを断ち切るためには、ちぐはぐなことをする患者さんを怒ったり、言い聞かせたりする態度(矯正的態度)をとらないことが必要です。しかし、これが非常に難しいのです。それはご家族は健康だった頃のご本人を知っているから。どうしても過去と現在を比べてしまい、辛い気持ちや悔しい気持ち、やるせない気持ちが積もりに積もってついイライラしてしまうからです。

    それでも、やはり大切なのは周囲の人間が本人にイライラを見せないことです。そのためには、アルツハイマー病による認知症が『 病気による症状 』であることを、まずは『 理屈 』で理解することが必要です。たとえば脳卒中という『 病気 』で半身麻痺という『 症状 』を患っているおじいちゃんがいたとします。杖をついてやっと歩いているに対して『 杖なんて使わないでシャキッと歩きなさい 』とは言わないですよね。

    考え方はこれと同じです。アルツハイマー病という『 病気 』によって認知症という『 症状 』が出ているのです。ちぐはぐなことをしたり、おかしなことを言ったりするのは『 病気による症状 』なので、それらを矯正したところで残念ながら何の利益にもなりません。『 心情的に納得ができない… 』としても、ご家族や周囲の人間ができるだけ早い時期からこのことに理解を示すことが『 最も有効な治療方法 』となります。

    患者さんの生い立ちを知って症状の予測を立てる

    人は誰でも意味がわからず理解できないものには不安を感じ、できるだけ避けようとします。これは人間の心理として当然の反応でしょう。しかし、あらかじめ『 予測 』しておけばさほど不安を感じず、避けるではなく『 受け止める/受け流す 』といった行動ができると思います。認知症の患者さんの言動や行動がちぐはぐで理解できないとき、周囲の人間は避けたがります。しかしながらこの避ける行為(逃げ腰)は、今までになかったような異常な言動や行動を加速させてしまいます。

    ではどうしたらよいでしょうか。

    1つ目は前述したように『 病気による症状 』だということを『 理屈 』で理解することですね。2つ目の方法としては『 患者さんの人柄や生活、人生からその人の認知症を考えて分析すること 』です。『 痴呆を生きるということ 』の中で著者の小澤 勲は『 その人のストーリーを読む 』という言葉で説明しています。

    たとえば物盗られ妄想が激しいおばあちゃんの若い頃を想像して『 戦後の混乱期には盗った盗られたが日常だったのだろう 』と考え、それと現在の妄想のつながりを考えてみるわけです。もちろん多くの場合、このような分析をしたとて問題が解決できるわけではありませんが、考える過程において自然と患者さんを知ったような気持ちになります。

    こういった要領で患者さんを知ることができると、患者さんの言動や行動をある程度予測することができます。そして『 あ~、言うよね~ 』といった感じでそれらの言動や行動に対して納得できるようになります。あらかじめ予測ができればそれほど不安を感じませんし、冷静な対応ができるものです。そして逃げ腰な態度もある程度抑えることができると思います。これらの方法も『 最も有効な治療方法 』と言えます。

    – ポイント –
    上記の『 認知症は病気による症状であることへの理解 』と『 患者さんの生い立ちを知って症状の予測を立てる 』は、どんな薬にも勝るアルツハイマー病の治療であることを改めて強調したいと思います。これらを意識することができれば、今までになかった異常な言動や行動の症状はそれほどひどくならずに済みます。

    とは言え、止むに止まれない状況があるのも確かです。症状の強さには個人差があり、どれだけ良い環境作りや介護をしても、妄想や興奮といった病気の症状が強く出てしまう方は一定の割合でいらっしゃいます。そんなとき、まずは薬物に頼らない治療を試みます。それでも功を奏しない場合は薬物による治療を進めていきます。念を押して言いますが『 薬物治療はあくまでも最終手段 』としてお考えいただければと思います。

    薬物に頼らない治療

    まずは薬物に頼らない治療方法です。大きく分けて以下の2つです。

  • 行動に焦点を当てたアプローチ
  • 感情に焦点を当てたアプローチ
  • 行動に焦点を当てたアプローチ

    原則は『 今までになかった異常な言動や行動の症状を記載し、それを分析して対策を計画して実行する 』です。

    記載するとは?
    『 いつ、どこで、どのような、どのくらいの頻度で... 』などです。
    分析して対策を計画するとは?
    ・症状の引き金になっている要因は何か?
     →要因を取り除いたり、本人から遠ざけることはできないか?
    
    ・介護者の対応が症状を増幅させていないか?
     →対応の方法を変えるなどして改善することはできないか?
    
    ・症状の基盤になっている機能障害(記憶障害、注意障害、病識低下など)はないか?
     →対応の方法を変えてなんとか和らげることはできないか、他の治療の余地はないか?

    ※これではちょっとイメージがつきづらいですが、ひとまずここでは概要だけとします。

    感情に焦点を当てたアプローチ

    回想療法感覚統合療法支持的精神療法などが含まれます。たとえば、回想療法は患者さんの記憶と感情を刺激することで自尊心を回復させ、ストレスを減らそうとするものです。患者さんの記憶能力などを訓練によって回復させることを目的とするわけではないことに注意が必要です。

    – これらの有効性 –
    軽度の効果があったとする報告や無介入との差がないとする報告があり、確立したものではないようです。

    薬物による治療

    繰り返しになりますが、あくまでも薬物治療は最終手段です。治療においてはいくつかのルールがあります。

    薬物治療の原則

    - 薬物治療の適応は以下のいずれかに該当する場合 -
    
    
  • 患者本人にとって大きな苦痛になっている。
  • 患者本人または他者の安全や衛生、栄養の確保を脅かしている。
  • 介護者の大きな負担となり、現在の療養環境を安定して続けることの妨げとなっている。
  • 非薬物的治療がすでに/並行して行われているが、十分な効果がない。
  • - 治療の目標 -
    	
  • 上記の問題が許容範囲内に収まる程度に症状を和らげること。
  • ※症状を消失させることが目標ではない。
    - 減量の考慮 -
    	
  • 定期的に患者を再評価して減量を試みることができないかを考える。
  • 治療で使われる主な薬物

    ※薬物の詳細に関しては別記事でまとめてありますので、こちらでは簡単な紹介だけとします。

    抗精神病薬:ハロペリドール、リスペリドン、チアプリド
    抗うつ剤:トラゾドン、フルボキサミン
    漢方薬:抑肝散
    抗不安剤(いわゆる安定剤とか睡眠薬):認知症の症状である異常な言動や行動には効果がない

    まとめ

    冒頭でも申し上げた通り、アルツハイマー病の根本的な治療方法は確立されていないのが現状です。したがって仮に発症した場合、合併症を防いで認知症の進行を加速させないことが重要なポイントになります。そのためには、『 薬物に頼らない治療と環境作り 』が最重要であり、止むに止まれない場合にのみ薬物に頼るという考え方が大切です。このブログではその点について少し詳しくお話したつもりです。

    かなり長くなってしまいましたが後編はこれで終わりです。大変お疲れ様でした。少しでも役立つ情報があったら幸いに思います。
    最後までお読みいただきありがとうございました。