アルツハイマー型認知症とは|陽性症状への対応と治療

認知症の親を心配する家族
『親がアルツハイマー型認知症って診断された。どうやって対応したらいいの。具体的な内容があれば教えてほしい。』
そんな質問にお答えします。アルツハイマー型認知症の対応と治療について『陰性症状編』と『陽性症状編』に分けて解説していきます。今回は陽性症状への対応と治療についてです。具体的に書いてあるのでめっちゃ長いです。覚悟してお読みください。
『陰性症状と陽性症状』について知りたい方はこちら
アルツハイマー型認知症とは|症状と経過について|matsukenblog
アルツハイマー型認知症は今までできていた能力の喪失(=陰性症状)、今までになかった異常な言動や行動の出現(=陽性症状)に大別されます。陰性症状とは記憶障害、遂行機能障害、注意障害など。陽性症状とは妄想、幻覚、興奮など。問題になりやすいのは陽性症状ですが、極端な方はごくわずかです。
『陰性症状への対応と治療』について知りたい方はこちら
アルツハイマー型認知症とは|陰性症状への対応と治療|matsukenblog
ざっくり言うと『 環境作りと介護 』によって生活リズムを整え、『 薬に頼らない治療 』を適宜取り入れ、『 薬による治療 』によってサポートすることが、アルツハイマー型認知症の陰性症状への対応と治療になります。適切な対応や治療を行えば認知症の進行はごくゆっくりと進むだけで済みます。
※現在、認知症専門医のもとで勉強中です。ここでは認知症に関して得られた知見などを少しずつ公開していきます。
今回の内容
- 陽性症状への対応|環境作りと介護
- 陽性症状への対応|薬に頼らない治療
- 陽性症状に対する治療|薬による治療
- まとめ
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陽性症状への対応|環境作りと介護
環境作りと介護における要点は以下の2つです。
具体的に見ていきましょう。
認知症は病気の症状であることを理解する
陽性症状(妄想、抑うつ、興奮など)は、介護者の大きな負担となります。ところが、介護者自身が知らず知らずのうちに陽性症状を刺激し、増悪させてしまっていることが多くあります。
これらを断ち切るにはチグハグなことをする本人を怒ったり、言い聞かせたりする態度(矯正的態度)をとらないことです。ただし、それが非常に難しい。ご家族は健康だったころの本人を知っているため、どうしても過去と現在を比べてしまいます。辛い気持ちや悔しい気持ち、やるせない気持ちが積もりに積もってついイライラしてしまいます。
それでも、やはり大切なのは本人にイライラを見せないことです。ではどうするか。まずは認知症が『病気の症状』であることを、理屈として理解することが必要です。たとえば脳卒中という『病気』により、半身麻痺という『症状』を患っている方がいるとします。杖でなんとか歩ける方に対して『杖なんて使わないでシャキッと歩きなさい』とは言わないですよね。
考え方はこれと同じです。アルツハイマー型認知症という『病気』により、認知症という『症状』が出ているのです。チグハグなことをしたり、おかしなことを言ったりするのは『病気の症状』なのです。したがって、それらを矯正したところで残念ながら何の利益にもなりません。心情的に納得ができないとしても、できるだけ早い時期からこのことに理解を示すことが重要です。
患者さんの生い立ちを知って症状の予測を立てる
あらかじめ『予測』しておけばさほど不安を感じず、避けるではなく『受け止める/受け流す』といった行動ができると思います。認知症による言動や行動がチグハグで理解できないとき、周囲の人間は避けたがります。しかしこの避ける行為(逃げ腰)は、さらに陽性症状を加速させてしまいます。
ではどうしたらよいでしょうか。
『人柄や生活、人生からその人の認知症を考えて分析する』ことです。『痴呆を生きるということ』の中で著者の小澤 勲は『その人のストーリーを読む』という言葉で説明しています。
たとえば、物盗られ妄想の激しいおばあちゃんの若い頃を想像してみます。『戦後の混乱期には盗った盗られたが日常だったのだろう』と考え、それと現在の妄想のつながりを考えてみるわけです。このような分析をしたところで問題が解決できるわけではありませんが、考える過程においてその方を知ったような気持ちになります。
こういった要領で本人を知ることができると、言動や行動をある程度予測することができます。そして『あ~、言うよね~』といった感じでそれらの言動や行動に対して納得できるようになります。あらかじめ予測ができればそれほど不安を感じませんし、冷静な対応ができるものです。逃げ腰な態度もある程度抑えることができると思います。
とはいえ、やむを得ない状況があるのもたしかです。症状の強さには個人差があり、どれだけ良い対応をしても、妄想や興奮などの陽性症状が強く出てしまうことがあります。そんなときは『薬に頼らない治療』を試みた後、結果が芳しくなければ『薬による治療』を進めていきます。
陽性症状への対応|薬に頼らない治療
薬に頼らない治療方法は以下の2つです。
行動に焦点を当てたアプローチ
行動に焦点を当てたアプローチとは『陽性症状を記録し、分析して対策を立てて実行する』ことです。
具体的に何を記録するのか?
『いつ、どこで、どのような、どのくらいの頻度で、なにが起きたのか』といった具合です。
分析して対策を立てて実行するとは?
➀症状の引き金になっている要因はなにか?
→要因を取り除いたり、本人から遠ざけることはできないか?
➁介護者の対応が症状を増幅させていないか?
→対応の方法を変えるなどして改善することはできないか?
➂症状の基盤になっている障害(記憶障害、注意障害、病識低下など)はないか?
→対応の方法を変えてなんとか和らげることはできないか、ほかに治療の余地はないか?
ちょっとイメージがつきづらいかもしれませんが、ひとまず概要だけとします。
感情に焦点を当てたアプローチ
『回想療法』『感覚統合療法』『支持的精神療法』などが含まれます。たとえば、回想療法は患者さんの記憶と感情を刺激することで自尊心を回復させ、ストレスを減らそうとするものです。ただし、これらの有効性に関しては確立したものがないようです。
陽性症状に対する治療|薬による治療
あれもこれも試したけど、どうしてもうまくいかない。そんなときは最終手段として、薬による治療に踏み切ります。薬による治療には3つの原則があります。
適応はいずれかに該当する場合のみ
・患者本人にとって大きな苦痛になっている。
・患者本人または他者の安全や衛生、栄養の確保を脅かしている。
・介護者の大きな負担となり、現状を安定して続けることが困難になっている。
・非薬物的治療がすでに/並行して行われているが、十分な効果がない。
治療の目標
・上記の問題が許容範囲内に収まる程度に、症状を和らげる。症状を消失させることが目標ではない。
減量の考慮
・定期的に診察をして、薬の減量ができないかを考える。
治療で使われる主な薬物
薬の詳細は以下の記事にまとめてあります。ここでは簡単な紹介だけとします。
アルツハイマー型認知症|陰性症状と陽性症状に対する治療薬|matsukenblog
アルツハイマー型認知症の治療薬は陰性症状(記憶障害、注意障害、遂行機能障害など)に対するもの、陽性症状(妄想、幻覚、興奮、易刺激性、抑うつ、不安、脱抑制、異常行動など)に対するものに大別されます。いずれにせよ、根本的に良くする薬ではありません。状況によりますが『薬物治療は最終手段』であることを忘れてはいけません。
抗うつ剤:トラゾドン、フルボキサミン
漢方薬:抑肝散
抗不安剤(いわゆる安定剤とか睡眠薬):陽性症状には効果がない
まとめ
アルツハイマー型認知症の陽性症状への対応と治療についてまとめました。陽性症状は介護者にとって大きな負担になることがあります。薬で鎮静化させるのは容易ですが、その前に認知症は病気の症状であることを理解し、生い立ちを知って症状の予測を立てるなどして、あらかじめ備える心も大切です。