【理学療法士】老人保健施設で働くメリット・デメリット

就活中の理学療法士
『老人保健施設に勤めようかと迷ってる。メリットやデメリットがあれば参考までに聞いてみたい。』
そんな質問にお答えします。
14年目の理学療法士です。これまで整形外科病院→整形外科クリニック→介護老人保健施設→訪問看護ステーションを経験してきました。
今回は理学療法士が老人保健施設で働くメリット・デメリットについてお話したいと思います。あくまでも私見ですが、それぞれ3つ挙げてみました。最後までお付き合いいただけたら幸いです。
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本日の内容
- はじめに
- メリット①:比較的ゆったりまったりと仕事ができる
- メリット➁:他職種から学べることが多い
- メリット➂:ソフト面での学びが多い
- デメリット①:書類業務やカンファレンスが多い
- デメリット➁:モチベーションの維持が大変
- デメリット➂:急性期への転向が大変(かもしれない)
- おわりに
はじめに
おそらく、人によってメリットとデメリットの感覚が違うと思います。それってメリットなの?それってデメリットなの?と思うかもしれませんが、ひとまず私の経験上でのお話をさせていただきます。
メリット①:比較的ゆったりまったりと仕事ができる
基本的に急性期の病院やクリニックほどの慌ただしさはなく、維持期特有の比較的ゆったりした時間が流れています。入所者自体、状態が落ち着いているし、目まぐるしく入れ替わりがあるわけではないのがその理由です。
ただし、介護老人保健施設には「その他型」「基本型」「加算型」「強化型」「超強化型」などの施設区分が存在する関係上、中には一生懸命に短期集中リハビリテーション実施加算や認知症短期集中リハビリテーション実施加算などを取っている施設があります。これらの加算業務が重なると、リハビリテーションスタッフもなかなか忙しさが増してくるのは事実です。
加えて、どこの施設も介護職員の人員不足が深刻。そうなると現場はややピリつくし、たまに介護業務の応援に向かわなければならないときがあります。全員でなんとかしようという空気感があるので、人員不足の影響がリハビリテーションスタッフまで波及してくるのです。
改めて振り返ってみると、老人保健施設には老人保健施設なりの忙しさがあるかもしれませんね…。
病院(維持期)の施設形態について
リハビリ職の方で病院の維持期リハビリテーションに興味のある方必読!維持期リハビリの仕事内容についてや患者さんの特徴、診療報酬改定について、維持期リハの難しい点などをご紹介しています。ぜひ、就職先の施設選びの参考にしてみてください。
メリット➁:他職種から学べることが多い
老人保健施設に限ったことではないかもしれませんが、作業療法士や言語聴覚士から専門的な知識を学ぶ機会が多いです。特に高次脳機能障害について、やはり彼らはよく知っています。
「あの人はこういう障害だから、こんな症状が出ている」とか「認知症とはこういうもの」とか「障害の影響もあるけど性格的な影響もある」とか。私もたくさん教えてもらいました。おかげで今まで理解に苦しんでいた人間の「ソフト面」について学べました。余談ですが、MMSEも習得することができました。
【 医療学生・専門職向け 】認知症検査|MMSEは点数で判断してはいけない|前編 | matsukenblog
認知症検査や高次脳機能検査においてMMSEは一般的に行わており、正常:28点 – 30点、軽度認知障害(MCI):24点 – 27点、軽度認知症:23点以下と定義されています。しかし、点数だけに注目していると思わぬ誤りにつながる可能性があります。重要なのは『 点数よりも中身 』なのです。
【 医療学生・専門職向け 】認知症検査におけるMMSEの方法とポイント|後編 | matsukenblog
認知症検査における『 追加課題を加えたMMSEの方法とポイント 』をお伝えします。標準のMMSEでも構わないのですが、追加項目を加えたほうが深く探れます。もちろんMMSEだけですべての認知機能が把握できるわけではありませんが、きちんと操れるとぐっと考察が深まります。
メリット➂:ソフト面での学びが多い
個人的にはソフト面での学びが多いのが一番のメリットだと思います。ここで言うソフト面とは、いわゆる人間性というか性格、高次脳機能について、精神状態について、家族について、生活環境について、生活の質について、人生とは?生きるとは?などというちょっと哲学的な部分のことです。
私だけかもしれませんが、理学療法士はどうしてもハード面(ここでは身体構造や機能のこと)にばかり目が行きがち。でもね、特に老人保健施設ではハード面にばかり目を向けていても正直言ってジリ貧です。身体機能だけ良くしても、その先の大きな問題の解決にはなりませんからね。
どちらかというと、やはりソフト面への見識や理解が重要と言えます。「あの人は元々こういう性格で、ある部位に高次脳機能障害がある。あの発言や行動は性格的な部分もあるだろうが、高次脳機能障害がそれを助長している。家族にはそれらも含めて理解してもらわないといけない。生活環境はああしてこうして、生活の質はどうやれば担保できるのか。」など。
そもそも、リハビリテーションの意義としてはハード面よりもソフト面のほうが、その意味合いは近いと言えます。老人保健施設ではリハビリテーションの意義を深く考えるきっかけとなるでしょう。
デメリット①:書類業務やカンファレンスが多い
リハビリテーション実施計画書を1回/3ヵ月は必ず書かなければならず、その度にカンファレンスが開催されるため時間が取られます。担当人数分を作成するのって意外と大変なんですよね。
他にも加算関係の書類ならなんやら、何かにつけて書類業務があります。「必要だから」と言われればそれまでですが、なんだかなあと思いながら過ごしていた気がします。
老人保健施設ではリハビリテーション自体の忙しさよりも、こういった書類業務やカンファレンスに奪われる時間のほうが多いように感じます。それにしても書類業務って、本質的には何の意味もなさない作業だと思うのは私だけでしょうか。
デメリット➁:モチベーションの維持が大変
病院やクリニックの経験者だと、なおさら感じるかもしれません。入所者は基本的に超高齢者で、抱えている疾患は様々ですがほとんどが維持期。したがって、急性期のように明らかに良くなる変化は少ないのが現状です。
罹患期間が長いことに加え、入所者によっては高次脳機能障害(発動性の低下や意欲低下など)が合併しているため、本人たちのモチベーションも低めな場合が多いです。さらにそれぞれの事情により、皆がみんな在宅復帰できるわけではありません。いわゆる「行く先」がなければ、モチベーションが上がらない気持ちもなんとなくわかります。
老人保健施設はこういった条件下で働くことになるため、こちらのモチベーションを維持するのも大変。とはいえ、そうも言っていられませんね。余談ですが、私がモチベーション維持のために意識していたコツをざっと挙げると「小さな変化に気づく」「病院やクリニックの感覚を捨てる」「私生活をさらに充実させる」といった具合でした。
デメリット➂:急性期への転向が大変(かもしれない)
急性期から維持期に転向した私がいるように、逆に維持期から急性期に転向する人もいるでしょう。患者(利用者)を診るのは同じとはいえ、急性期と維持期では求められるモノが異なります。私の主観としては、おそらく急性期への転向は苦労すると思います。
ちょっと極端なことを言いますが、急性期では身体構造や機能といった、いわゆるハード面の知識が必須です。知識がないと医師の会話についていけないばかりか、患者への説明もできないでしょう。リハビリテーションとしては技術的(手技的)な問題もあります。
対する維持期では、正直言ってハード面の知識や技術がなくても全然なんとかなります。どちらかというとソフト面の知識が優先されるのは先ほどお話した通り。このように求められるモノが異なるため、維持期出身ではどうしてもハード面の知識や技術が乏しくなります。
もちろん個人の力量によるし、時間をかければなんとでもなります。急性期だってソフト面の知識が必要な場面はたくさんあるので、これまでの経験が決して無駄になることはありません。とはいえ、やはり最初はどうしても苦労するでしょう。
急性期は忙しいです。バタバタしています。そんな環境で急性期に必要とされる知識や技術を習得するのは、なかなか骨の折れる作業なのです。
おわりに
病院でも介護施設でもクリニックでも、どこで働いてもメリット・デメリットは存在します。結局選ぶのは自分なので、何をどこまでなら許容できるのか、デメリットを上回るメリットがあるのかなど、就職前にできるだけ考えておきましょう。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。