交通事故の後遺症|脳の機能障害(=高次脳機能障害)の特徴

交通事故にあった人/そのご家族
『 頭を強く打ってからというもの、なんだか以前と様子が違うし…とても心配。頭の中でなにかが起きているの? 』
そんな質問にお答えします。
※現在、認知症専門医のもとで勉強中です。ここでは認知症に関して得られた知見、そのほか調べていて気になったことを少しずつ公開していきます。
本日の内容
- 交通事故の後遺症|脳の機能障害の特徴
- まとめ
- 参考文献
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交通事故の後遺症|脳の機能障害の特徴
交通事故では一般的に前頭部を強く打つことが多いです。そのため脳の機能障害(=高次脳機能障害)も脳の前方(=前頭葉)に由来するものが多く、いわゆる『 前頭葉症状 』が出やすい傾向にあります。
前頭葉症状の主たる症状は『 注意障害、遂行機能障害、記憶障害、行動と感情の障害 』です。行動と感情の障害では『 抑うつ状態、興奮状態、意欲の障害、情動の障害 』が顕著に表れます。こういった症状は本人のQOLを下げるだけでなく、家族の介護負担を重くする要因にもなります。
それぞれの症状について解説していきます。聞き慣れない単語が多いですが、なんとなくイメージしてもらえたら幸いです。
注意障害
前頭葉症状で現れる注意障害とは、以下の4つの状態です。
→騒がしいところで特定の人と話ができない、飽きやすい。
②注意を維持、持続させる能力(持続性注意)
→長く仕事をするとミスが出る
③複数の刺激に対して同時に注意を向ける能力(配分性注意)
→複数人での会話ができない
④注意の方向を転換する能力(転換性注意)
→話題が変わるとついていけない
『 注意 』とは日常のあらゆる知的活動の基盤です。注意障害があると、おおむねすべての生活に影響が生じます。
遂行機能障害
『 遂行機能 』とは目的をもった一連の活動、 たとえば料理などの家事動作を効果的に行う能力のことを言います。
→お味噌汁を作ろう
②手順を考える( 計画=段取り )
→具材は豆腐・わかめ・油揚げを入れよう、出汁は煮干しにしよう、お味噌は赤がいいな。鍋を用意して、水を入れて沸騰させている間に具材を用意すればスムーズかな。
③複数の方法から取捨選択をする
→いや待てよ、やっぱり時間がないからインスタント味噌汁にしようか。
④実施する(決断)
→インスタント味噌汁にお湯を入れる
⑤その結果を確認する(フィードバック)
→しっかり溶けたかな。よし食べよう。
イメージできますかね。普段なにげなくやっている行動の一つ一つには、このような遂行機能が関わっています。なので遂行機能が障害されると、日頃の生活や作業を自分で組み立てられなくなります。行動を計画的に行うことができない、優先順位が決められない、行き当たりばったりの行動になってしまうなどの症状があらわとなります。
ただし一つの行動を指示されて、一つ実行することは可能です。アドバイスがあればできるんです。問題になるのは複数の行動の順序や手順を考えなければならない状況で、段取り良くふるまえなくなることです。完全に本人に任せてしまうとうまくいきません。
記憶障害
記憶を司る脳の一部(=海馬)が損傷すると、事故前後の記憶が障害されることがあります。
→事故以前の記憶が思い出せません。回復するにつれて徐々に事故時まで思い出せるようになります。
➁前向性健忘
→事故以降の新しいエピソードが記憶できなくなります。
➂展望記憶
→決まった時刻で約束が果たせないなどの将来に向かって行う記憶のことをいいます。たとえば「 プレゼンの締め切りは2月末だ 」というように、未来に起こることについて憶えていられなくなります。
行動と感情の障害
→意欲の低下、引きこもり、うつ状態など
➁脱抑制
→暴力、暴言、自己中心的、衝動性など
➂自己内省の問題
→病識の低下(自分を客観視できない/自分の状態を正確にとらえられない)など
いずれも社会性の低下をもたらします。脳に損傷がなくても心因性の要因で表れることがありますが、立派な高次脳機能障害の一つです。
ただし高次脳機能障害と診断するには、これらの症状を説明しうる『 脳の損傷(=器質的損傷) 』があることが条件です。器質的損傷を判断するには画像所見(CT、MRI)が有用ですが、軽度外傷性脳損傷では必ずしも画像上の異常を認めないことがあります。
まとめ
交通事故の後遺症として高次脳機能障害があります。ここでいう高次脳機能障害とは主に前頭葉症状(注意障害、遂行機能障害、記憶障害、行動と感情の障害)のことです。すべての症状が同時に出るのは稀かもしれませんが、交通事故後に『 なんだか、以前と違うな 』という感覚を覚えたのなら、それは前頭葉由来の高次脳機能障害かもしれません。個人的には専門医への受診を強くお勧めします。
参考文献
渡邉 修:交通事故後の高次脳機能障害, Journal of the Japanese Council of Traffic Science Vol.17 No.1 2017
博野信次:臨床認知症学入門 改定2版, 金芳堂, 2007