【登山の生理学】登山で必要な体力とは|ポイントは全身持久力・筋持久力・筋パワー
山に登る人
『登山で必要な体力ってなんだろう。参考までに知っておきたいな。』
そんな質問にお答えします。
そもそも体力とは『全身持久力』『筋持久力』『筋パワー』『敏捷性』『柔軟性』の要素から成り立ちます。なかでも、登山において重要なのは『全身持久力』『筋持久力』『筋パワー』です。今回はそれらについて簡単に説明したいと思います。
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本日の内容
- 全身持久力
- 筋持久力
- 筋パワー
- まとめ
- 参考資料
全身持久力
全身持久力とは全身運動をいかに長く継続できるかという能力です。呼吸・循環器系の有酸素能力が重要となります。
呼吸器系
呼吸器系の機能が低下すると、息切れや息苦しさを招きやすくなります。持久力トレーニングを行うことで運動時の過換気が抑制され、呼吸筋の仕事量や息苦しさが軽減し、より強い運動ができるようになります。
評価において、その指標となるのが『最大酸素摂取量』です。しかし、最大酸素摂取量を測定するには特殊な機器を必要とするため現実的ではありません。
その代わりとしてよく用いられるのが『12分間走』のようなフィールドテストです。12分間にできるだけたくさんの距離を走らせ、その距離から最大酸素摂取量を推定することができます。興味がある方は試してみてはいかがでしょうか。
循環器系
呼吸器系の機能と切っても切り離せない関係ですが、ここでは分けて説明します。まず、循環器系の代表として心臓への効果があります。運動時や安静時における一回拍出量が増加し、徐脈や心肥大をもたらします。もちろん、これらの心変化は運動に対する生理的適応なので、病的心臓とは異なります。
他には大動脈系の血管壁の面積が増加したり、筋肉の毛細血管が発達したり新しく生まれ変わったりします。形態的にも機能的にも、運動に対して生理的に変化していきます。
筋持久力
筋持久力とは、筋肉がいかに長く作業を継続することができるかという能力です。全身持久力が呼吸・循環器系の機能とするならば、筋持久力は筋肉そのもの持久力を表すことになります。
筋肉の線維には以下の種類に分けられます。
※厳密にいうとタイプⅡはタイプⅡa、タイプⅡb、タイプⅡcに分けられます。タイプⅡaはタイプⅠとタイプⅡbの中間的性質、タイプⅡcは胎児期や新生児期に見られます。
持久的要素の強いマラソンやクロスカントリーなどのスポーツ選手にはタイプⅠの割合が高く、瞬発的要素の強い短距離選手などのスポーツ選手にはタイプⅡが高いことが知られています。もちろん割合が高いというだけで、どちらか一方しか存在しないということではありません。
では登山の場合はどうか。圧倒的に持久的要素が強いスポーツですので、タイプⅠの要素が高くなるとともにその必要性が求められます。
タイプⅠでは酸素を利用した代謝活動が繰り返されます。筋肉のエネルギー源であるグリコーゲンが枯渇せず、酸素の供給が続く限り、筋肉は無制限に活動しつづけられるのです。もちろん現実問題として、そう単純にはいきませんよ。
筋パワー
筋パワーとはいわゆる筋力のことです。先ほどの分類でいえばタイプⅡに相当します。瞬間的な力に優れていることから、重い荷物を持ち上げたり、危険個所を一気に通り抜けたりするときに発揮します。しかし疲労しやすい特徴があるため、長い時間働くことはできません。
まとめ
登山に必要な体力をまとめます。あえて優先順位をつけるとするならば『全身持久力>筋持久力>筋パワー』の順番になります。一般的に、女性は男性よりも筋パワーが劣ります。しかし長時間ひたすらと歩き続ける場合、実は女性のほうが有利であるとの報告もあります。
もちろん荷物の重量などにより左右されますが、やはり登山では筋パワーよりも全身持久力や筋持久力がモノをいいます。登山を想定したトレーニングでは、そのあたりを意識して行うと良いでしょう。
本格的な登山に向けたトレーニング方法|おすすめ3選|matsukenblog
おすすめは『低山トレーニング』『下肢の筋力トレーニング』『ジョギング』の3つです。「えっ、結局山は登らないとなの」と思われる方が多いと思いますが、登山のための体力を登山以外のトレーニングだけで身につけることは困難なのです。したがって、低山トレーニングは外せないのです。
参考資料
能勢 博ほか:科学が教える山歩き超入門, エクシア出版, 2021
細田多穂ほか:理学療法ハンドブック改訂第3版, 2006